銀座歌舞伎座 猿若祭二月大歌舞伎をかみさんと連れ立って見に行きました。尾州藩愛知郡中村出身の狂言師 初代 猿若勘三郎(1598~1658) が江戸に下り1624年 芝居小屋 猿若座を立ち上げ江戸歌舞伎の発祥となったことを記念したお祭りだそうです。猿若は 本名 中村勘三郎で現在の中村屋につながる系譜といわれます。猿若座は後に中村座となります。また猿若の長男が初代 中村 勘九郎 (生没年不詳) でした。
二月歌舞伎 昼の部 演目は「 其俤対編笠 鞘當 (そのおもかげついのあみがさ さやあて) 」、「 醍醐の花見 」と「 きらら浮世伝 版元蔦屋重三郎魁申し候 」です。「鞘當」「醍醐の花見」はそれぞれ30分ほどの小編、長い演目の一場面だけを再現したものでこれだけでは面白味も分からず退屈でした。「きらら浮世伝」副題の「 魁(かい)」とは先駆け、先陣を切る者、転じて大きく立派なもの、という意味、重三郎は物事を誰よりも早く始め時代を先駆けた、という意味合いなのでしょう。
二月歌舞伎「きらら浮世伝」は現在放送中のNHK大河ドラマ「 べらぼう 蔦屋栄華乃夢噺(つたやえいがのゆめばなし)」と同じく、江戸時代 メディア王 蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう 1750~1797)の活躍を描いた新作歌舞伎です。大河ドラマに便乗した新作かと思ったものの、実は1988年(昭和63年) 銀座セゾン劇場 で、主人公蔦屋重三郎を 五代 中村勘九郎(のちの十八代 勘三郎)が演じ、美保純、山村美智子、原田大二郎、川谷拓三などが出演した劇「寛政期の青春グラフィティ きらら浮世伝」の歌舞伎化初演でした。脚本演出は どちらも 横内謙介です。横内は下北小劇団の若手座長でした。中村屋が演じた元々所縁のある舞台、それもどちらも横内脚本とあればこちらの方がオリジナルといってよさそうです(大河ドラマ脚本は森下佳子)。


二月歌舞伎チラシ 松竹も力が入っているのか 珍しい二つ折り四ページのチラシです(表紙と3頁目)
歌舞伎でありながらオーケストラ演奏の音楽が使われ、モダンな簡潔な大道具背景、演者のテンポの早いセリフ回し、きびきびした所作、話の展開もスピード感にあふれ、新作歌舞伎の真骨頂を感じられてまことに楽しい舞台でした。
吉原遊郭生まれ、遊郭育ちのもらわれっ子 重三郎が錦絵の目利きとなり出版を志してのし上っていき歌麿、写楽の稀代の絵師を育て一世を風靡するも幕府の弾圧を受ける半生を描いています。蔦屋重三郎の周囲には江戸庶民文化の担い手となる絵師、彫り師、戯作者などがその人柄を慕って集まったそうで、多士済々が劇中に表れます。歌舞伎座筋書を読んで初めて気がついた人物の若い時代ばかりで、芝居を見ている間は誰が誰やら判別できないですし史実かどうかを疑いました。Wikipedia の受売りですが記録に残った事実のようでした。
恋川春町(戯作者 1744~1789)、太田南畝(狂歌師 1749~1823)、 喜多川歌麿(1753~1823)、 山東京伝(1761~1816)、 葛飾北斎(1760~1849)、 瀧澤馬琴(1767~1848)、十返舎一九(1765~1831)などが劇中に登場します。
NHK大河ドラマは序盤 吉原遊郭の裏世界を赤裸々に描いていて、そのリアルさにPTA団体から苦情が殺到しそうな悪い予感をしていますが、この新作歌舞伎は遊郭描写が省かれ独立後の重三郎の躍動、爽快さ、エネルギッシュさ、不屈の闘志の爽やかな描写で分がありそうです。それも当代 中村 勘九郎の演技巧者によるものだと思います。勘九郎の舞台はますます磨きがかかり中堅役者のうち図抜けた存在になっています。
この舞台を見てこれからのNHK大河の版元立ち上げ後の蔦屋 重三郎の活躍も楽しみになってきました。
二月歌舞伎 「きらら浮世伝」、一見の価値あり。