私の推薦図書 がん闘病記
2006年春に胃がん手術を受けた後、たくさんのがん闘病記を読みました。主治医は術後の後遺症の悩みや、不定愁訴を聞いてもらえますが、外科医ですし、毎年毎年どんどん増えていく担当患者のきめ細かいフオローをすることは大変ですし、往々にして無理なことだと思います。そこで、私は胃切除経験の患者会(東京港区に事務局を置くアルファクラブ)に入りたくさんの患者さんの経験談を集めた闘病記や、部位にこだわらずがん闘病をされた方の闘病記を読んで大変勇気つけられました。私がお薦めしたい書物をご紹介します。
岸本 葉子 「がんから始まる」文春文庫2006年
才色兼備の売れっ子エッセイストが虫垂がんになって開腹手術を受けてからの闘病記です。ご自分のがんの症状を解明し、主治医と明瞭なコミュニケーションをとろうとして努められ、つねに冷静に絶望せずに毎日をすごしておられる姿に感動させられ、読むうちに次第に勇気付けられます。岸本さんは、すでに完治したといわれる5年も過ぎて、数々のがん対策の講演会や、パネルの患者代表としても意欲的に出席して発言をされています。私は、この著書を読んで大変感動し、講演会で2度ほど話をさせていただき、著書にサインも頂きました(単純にミーハーです)。若い女性で、これほど淡々と明晰な病気への姿勢にがん患者の方に参考になることがたくさんあることを気づかされます。一読をお勧めします。
関原 建夫 「がん六回人生全快」朝日文庫2003年
米国勤務の銀行員が大腸がんを罹患し、ニューヨークで手術を受け、その後再発、転移を繰り返し、外科手術を合計7回受けて不撓不屈の精神力で、とうとう完治した記録。勤め人としても優秀な方で、仕事の手抜きを一切せずに入院先からも出勤を繰り返すなど、その凄まじい生命力、精神力に畏敬の念を持ちます。著者は、日本に帰国後、国立がんセンター中央病院で治療を受け、医学界の最優秀ともいえる先生方の最善の医療を受けられた、稀有な患者さんでもあると思いますが、それだけでなく、不屈の精神力が幸運を呼び、深刻な進行がんからの生還を果たされ、我々がん患者に希望を与えてくれる名著であると思います。私はこの本を読んだ後、大腸がんのなかには、転移を繰り返しても外科手術で治癒されるケースがある実例に初めて知った気がしました。
竹中 文良 「医者が癌にかかったとき」文春文庫1994年
医者で自ら大腸がん闘病をされた竹中先生の著書。 竹中先生はその後、患者会の組織つくりに尽力され、ジャパン・ウェルネスNPO法人を設立された。残念なことに2010年再び肝臓がんで逝去されました。この著書では、患者になった著者自身のエッセイだけでなく、進行性のがん患者になった同僚医師たちの狼狽した姿や、落胆していく姿、亡くなられていく、なんとも沈鬱な話が語られています。しかし、先生方ががんにならないことなどあり得ないのです。いまや、日本人の二人に一人に近い確率で罹患する病気であり、罹患の可能性は医師であれ、大金持ちであれ、天才的な優秀な学者先生であれ、ほとんど差はない病気である現実を思い知らされます。要は、手当のできる段階でなんとか発見できるように心がけするしか対処策はないという気がします。なによりも、禁煙など、生活習慣の改善が不可欠です。