がんになった時の心得
ある日病院の先生からがんの疑いを告げられると、時間を置かずにいくつもの精密検査
を受けて、程なく本格的な治療を開始することになります。がんの治療は長期に渡ります
が、そのために是非考慮に入れて置かなければいけないことがいくつかあります。
私が胃がんの手術をして治療を受けたこの5年間に気づいたことをご披露します。
①長期間、治療を受けられる病院を選ぶこと。
がんの告知を受けたときから間髪をおかずに、治療が開始されます。
確定診断のためには、その前にレントゲン、CT、エコー、内視鏡など精密検査を受ける
ことになるので、頻繁に病院を訪れることになりますし、その後、外科手術を受ければ最低でも10日ぐらいは入院することになります。
ここで気をつけたいのは、がんは退院後の治療が長期に渡って続くということです。
大抵のがんは5年間は医師の定期的な診察を受けることになります。転移や再発が
あれば、5年を越える通院は珍しいことではありません。
また、男性の前立腺がんや、女性の乳がんでは10年治療を受けることが常識と言われています。
定期的な受診は3~6ケ月に1度、場合によっては毎月受けることが必須ですので
負担なく通院できる病院であることが必要です。がん患者の数は増加の一途ですし、
専門医がフォローする患者の数は年々増えていくのですから、大病院などでは、
診察の順番が来るまで2、3時間待ちはザラでしょう。
従って、自宅から飛行機や、新幹線で通わなければならないような遠隔地はお勧めしません。地方の勤め先でそのまま入院治療を受けて、東京や大阪の自宅へ戻ったのはよいが、継続治療を引き受けてくれる病院が見つからず、病院まで新幹線で通わざるを得ず、相当の経済的、肉体的な負担を負う場合があります。
がんの治療は、残念ながら、手術後や、再発転移後、途中からの治療を引き受けて
くれる病院はまずありません。主治医と意見が合わず喧嘩別れをすると、患者さんは
受け入れ先を探せずに彷徨うことになります。また、一部の医療機関では標準治療を
外れた段階で、「これ以上の治療方法はありません。」と申し渡されて、緩和ケア(ホスピス)を勧めるけれど、患者さん自身で探すように言い渡されることがあるのが現実
です。これが「がん難民」です。
また、優秀で頼りがいのある主治医の転勤にともない、病院を変える患者さんも
います。これも、私は原則的には避けたほうが良いと思います。医師が、いつまでも
患者の通院できる場所に勤めるとも限りませんし、先生が退職でもしたときにその
病院で継続治療を受けることが可能とは言い切れないのが現実だからです。
治療方法を検討する上でセカンドオピニオンを取ることに躊躇する必要はありませんが、
治療を受ける場所は、長期間通院することが容易なこと、担当医が変更になっても
病院を変えず、後任の医師に引き継いでもらうことを考えます。誰でも医師との
相性の良し悪しは避けられませんが、好き嫌いや、一時的な意思疎通不足だけで
判断するのは止めましょう。極くまれに、治療をめぐって患者の意見を聞かない
高圧的な態度を取る医師や、許せない言動をする医師もないではないのですが
その時も担当医師を変えてもらうように、その病院に申し出て解決策を探す
方が賢明だと思います。
職場を離れるわけに行かず、単身赴任先の病院で手術を受けて、その後の通院に
相当の負担を強いられたり、医師が年老いて引退した後、治療を引き継いでくれる
医師がおらず苦労することなどは、意外と耳にします。
5年、10年の一定期間の治療を無事終えて、定期受診はもう必要なしと言われても
カルテや記録が残っている病院だと、いざというとき安心ですので、特定の先生の
患者であることより、特定の病院の患者であることを優先したほうが安心です。
また、肺がんや、肝臓がんや、難しい種類のがんであれば、各都道府県にあるがんセンターのような拠点専門病院を受診することが良いでしょうが、標準治療の比較的進んでいる胃がんや、大腸がんなどであれば私は、必ずしも専門病院でない選択もあると
思います。専門病院は患者さんの数も桁外れに多く、いつまでも治療を受けさせてもらえるか分からないからです。
簡単にいうと、治療に通うのに負担がないこと、5年を越えても相談に行けること、
担当医が変わっても組織的に継続診療をきちんと受けられる病院を選ぶこと、が大事
です。
②主治医とのコミュニケーション
これは難しい問題だと思います。専門的知識の乏しい患者が専門家である医師の
話を100%理解できるとは到底思いません。また医師も、門外漢の患者に
きちんと説明できる方ばかりとは思えません。ただでさえ、がん患者は自分の
病気に不安を強く持ち、疑心暗疑になるのが普通のことですので、質問だって
的確に、遠慮せず主治医にすることすら、なかなか上手くいかないのです。
ただ、落着いて冷静に疑問点や相談事をすれば、聞く耳をもつ医師がほとんどで
あると思います。分からないことはできるだけ主治医に相談し、専門家としての
意見や指示を大事にしましょう。
知ったかぶりや、根拠のはっきりしない聞きかじりのことをベースに
質問をすると嫌がられます。私は、インターネットや、書籍で知ることのできる範囲は
努めて勉強して、メモに質問事項を箇条書きにして、主治医に見せながら聞く
ことにしていました。患者から、自分のがんのステージや5年生存率を躊躇なく
聞けることは少ないと思いますし、患者の気持を良く理解できる医師もそれほど
多くはないと思います。口数の少ない先生や、外見的に気難しそうに見える
先生を前にすると気後れしますが、どうぞ心を強くして意思疎通を図れるように
してください。
③普段の生活を取り戻すこと
これはがんの種類や進行の度合で、異なることを承知の上で申上げます。
もし、早期のがんで、根治的外科治療を受けることができたのであれば、
自分の体の変化に注意を払い、でも、できるだけ普段の、ごく普通の生活を
取り戻すことです。もちろん、煙草は即時止めます。
ウオーキングや、それ以外の軽目の運動は早い時期に習慣化します。
私は胃を摘出したので消化を助けるために小腸、大腸の運動を良くするために、
スポーツクラブ通いに精出すことにしていますし、食事の時は30回以上の
咀嚼や、嫌々でも歯の治療を心がけるようにしています。
この生活上の注意点は、昔から親や、学校で口すっぱく言われたことばかり。
特別なことではないが、健康を維持するための生活習慣を実行することが必要です。
2011/09/07